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間葉系幹細胞治療の治療効果促進へ期待 ー治療効果にアディポネクチンが重要であることを発見ー

アディポネクチンに関する研究結果が大阪大学から発表されました。アディポネクチン濃度(アディポネクチン値)が心不全症をはじめ、様々な疾患への治療効果が期待されるというものです。新型コロナウィルスに伴う急性呼吸窮迫症候群を含めて、様々な疾患への応用も期待できるという内容でしたので、ご紹介いたします。

研究成果のポイント

  • 脂肪細胞に由来する分泌因子であるアディポネクチン※1が、間葉系幹細胞※2治療の効果に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

  • 今回の研究で、血中アディポネクチン濃度が間葉系幹細胞治療効果に重要であることがわかりました。

  • 治療法の改善は、重度の心不全だけでなく、新型コロナウイルス感染症に伴う急性呼吸窮迫症候群を含めて、さまざまな疾患への応用が期待できます。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の喜多俊文寄附講座講師(肥満脂肪病態学)、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、脂肪細胞が分泌し、血中に多量に存在する善玉タンパクであるアディポネクチンが、エクソソーム※3産生を促進することで、間葉系幹細胞が治療効果を発揮することを、心不全マウスモデルを用いて発見しました。

間葉系幹細胞治療は、重症心不全症をはじめ、様々な疾患への応用が期待されていますが、効果に個人差があり、かつ不十分という問題がありました。

今回、喜多寄附講座講師らの研究グループは、間葉系幹細胞にアディポネクチンの受容体であるT-カドヘリン※4が発現していることから、間葉系幹細胞治療法におけるアディポネクチンの役割とその応用について研究し、血中のアディポネクチン濃度が治療効果に重要であることを見出しました。これにより、新型コロナウイル感染症に伴う急性呼吸促迫症候群の治療をはじめ、間葉系幹細胞を用いた様々な治療への応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy」に、7月11日(土)午前1時(日本時間)に公開されました。

アディポネクチンは間葉系幹細胞治療を促進する図

図1 アディポネクチンは間葉系幹細胞治療を促進する(©2020Molecular Therapy. Graphic abstractより一部改変)

研究の背景

本研究グループは、細胞間接着やコミュニケーションに重要であるT-カドヘリンに結合する血中の主要なタンパクがアディポネクチンであり、とても強い親和性で結合することを明らかにしました(福田ら、J Biol Chem 2017)。アディポネクチンには、これまでに幾つかの受容体が報告されていますが、血中に存在する生理的なアディポネクチンは、T-カドヘリンを発現する細胞に特異的に結合することを明らかにしました(喜多ら、Elife2019)。

さらに、アディポネクチンがT-カドヘリンを介して、細胞のエクソソーム産生を促進することを発見しています(小幡ら、JCIInsight2018、喜多らJCI2019)。骨格筋の再生を促進するアディポネクチンの機能もT-カドヘリンを必要として、エクソソーム産生が関与することも見出しました(田中ら、Sci Rep2019)。

また、間葉系幹細胞治療は脂肪組織や骨髄組織に存在する体性幹細胞である間葉系幹細胞を分離培養して投与する治療法です。重症心不全症をはじめ、様々な疾患への応用が期待されていますが、効果に個人差があり、かつ不十分という問題がありました。そこで今回、治療応用研究が注目されている間葉系幹細胞にもT-カドヘリンが発現していることを見出し、本幹細胞治療法におけるアディポネクチンの役割とその応用について研究しました。

本研究の成果

研究グループでは、アディポネクチン欠損マウスに間葉系幹細胞を投与することにより、心不全モデルの治療効果には血中のアディポネクチンが必要であり、その濃度依存的であることを解明しました。間葉系幹細胞治療において、投与した間葉系幹細胞は、膜表面に発現するT-カドヘリンというアディポネクチンの受容体を介してアディポネクチンを細胞内に取り込むことで、エクソソームを多量に産生し、エクソソームが心臓に働くことで心不全モデルの心機能が改善することを明らかにしました。

さらに、糖尿病治療薬として広く用いられているピオグリタゾン※5を併用投与することで、血中アディポネクチン濃度を上げれば、間葉系幹細胞の産生するエクソソームが増加し、治療効果も有意に促進されることを見出しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、間葉系幹細胞治療にピオグリタゾンなどの血中アディポネクチン濃度を増加させる薬剤を併用することが、重症心不全や、また新型コロナウイル感染症に伴う急性呼吸促迫症候群の治療をはじめ、様々な疾患への応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年7月11日(土)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Molecular Therapy」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】

"Adiponectin stimulates exosome release to enhance mesenchymal stem cell-driven therapy of heart failure in mice"

【著者名】

Yuto Nakamura1, Shunbun Kita1, 2*, Yoshimitsu Tanaka1, Shiro Fukuda1, Yoshinari Obata1, Tomonori Okita1, Hiroyuki Nishida3, 4, Yuki Takahashi5, Yusuke Kawachi1, Yuri Tsugawa-Shimizu1, Yuya Fujishima1, Hitoshi Nishizawa1, Yoshinobu Takakura5, Shigeru Miyagawa6, Yoshiki Sawa6, 7, Norikazu Maeda1, 8, and Ichiro Shimomura1 *Corresponding Author

【所属】

  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学

  2. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学

  3. ロート製薬株式会社

  4. 大阪大学 大学院医学系研究科 先進幹細胞治療学

  5. 京都大学 大学院薬学研究科 病態情報薬学

  6. 大阪大学 大学院医学系研究科 心臓血管外科学

  7. 大阪大学医学部付属病院 未来医療開発部未来医療センター

  8. 大阪大学 大学院医学系研究科 代謝血管学寄附講座

なお、本研究は、JST基盤研究、AMED橋渡し研究、上原記念生命科学財団助成研究、大阪大学IBグラント助成研究の一環として行われました。

用語説明

※1 アディポネクチン

脂肪細胞から産生分泌されるタンパクであり、様々な臓器保護作用を有することが知られます。T-カドヘリンという受容体に特異的に結合して、エクソソーム産生を促進する機能があることを、同研究グループが発見しています。

※2 間葉系幹細胞

骨髄や脂肪組織をはじめ、全身のあらゆる組織に存在する体性幹細胞。脂肪細胞や軟骨細胞などに分化する多分化能を有しており、組織の修復や恒常性の維持に寄与していると想定されています。脂肪組織等から容易に分離培養可能で、非自己の間葉系幹細胞でも免疫原性が低く、投与することで、免疫調節機構や組織再生・修復機構が促進されるとされ、様々な疾患を対象として900以上の臨床試験が、進められています。

※3 エクソソーム

細胞内から産生分泌される直径100nm前後の微粒子であり、セラミドなどの細胞の余剰物質を細胞外に排出する機能と共に、様々な生理活性核酸やタンパク質を内包し、細胞間の情報伝達に機能することが知られています。エクソソームの血中濃度はアディポネクチンによって強く制御されること、アディポネクチンの骨格筋再生促進機能にも深く関係することを、同研究グループが発見しています。

※4 T-カドヘリン

細胞間接着やコミュニケーションに重要なカドヘリンの一種であるが、細胞内ドメインを有さず、脂質アンカーによって細胞膜に係留される特殊なカドヘリン分子です。本研究グループによって、T-カドヘリンは高親和性かつ高選択的にアディポネクチンと結合することが明らかにされています。

※5 ピオグリタゾン

糖尿病治療薬の一種です。核内受容体の一つであるPPARγに結合し、アディポネクチンなどの産生を促進するとともに、脂肪細胞分化を促進することで血糖を低下します。既に物質特許の期限を過ぎた治療薬であり、安価な薬価で使用することが可能です。

研究者のコメント

喜多俊文 寄附講座講師

細胞内領域や膜貫通領域を持たないタンパクが、血中因子に連動して細胞の余剰物や不要物の搬出促進や細胞間情報伝達を促進することに機能するという例であり、従来の受容体-リガンドの枠を超えた新発見でもあります。しかしながら研究者にとって最も重要なことは、この研究が役に立つということです。新型コロナウイルス感染症をはじめ、様々な疾患の幹細胞治療に応用されることを期待します。

かなり専門的な内容、説明になりますので、掲載されたまま転載致しました。
https://research-er.jp/articles/view/90679

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