メタボリックシンドロームの鍵を握る善 玉脂肪ホルモンのアディポネクチン
アディポネクチンについて、多くの専門医が著書や論文等を出しておりますが、一般の方には、専門用語が多くわかりずらいので、著書、論文等の中でもわかりやすく書かれているものをいくつかご紹介いたします。
第一弾としては、愛知県がんセンター名誉総長の富永祐民氏が書かれたものです。
青木平八郎記念予防医学広報事業団
疫学・予防情報
第1巻
健康づくりと生活習慣病予防
健康長寿への道
2013年8月31日 初版発行
平成25年8月
富永祐民(愛知県がんセンター名誉総長)
第5章 505
メタボリックシンドロームの鍵を握る善玉脂肪ホルモンのアディポネクチン
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は腹部に脂肪がたまることに起因しています。腹部脂肪は単に脂肪のかたまりでなく、アディポカイン(脂肪ホルモン)と総称される種々の生理活性物質を分泌しているのです。アディポカインは数種類あり、あるものは炎症を起こし、別のものは血圧を上げたり、インスリンの抵抗性を高めて血糖値を上昇させたり、悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪を増やす作用があります。これらはいずれも悪玉のアディポカインですが、「アディポネクチン」は唯一善玉のアディポカインです。
善玉のアディポネクチンの作用
最近の研究から善玉のアディポネクチンが減少すると、血圧、血糖値、中性脂肪値などが上昇したり、善玉のHDLコレステロール値が低下し、メタボリックシンドロームになってしまうことがわかりました。したがって、メタボリックシンドロームの予防や治療のためにはアディポネクチンが増えるようにすればよいわけです。これまでの研究から、善玉のアディポネクチンを増加させるには、運動、禁煙、食事療法(カロリーを抑え、大豆製品をよく食べるなど)が有効であることがわかっています。善玉コレステロールは善玉アディポカインと同様に、運動、禁煙で増加しますから、運動と禁煙でメタボリックシンドロームを予防するアディポネクチンと動脈硬化を予防する善玉のHDLコレステロールが増えますから、運動と禁煙は一石二鳥の効果があると言えます。しかし、アディポネクチンの量は生活習慣だけでなく、遺伝的な影響も受けていることもわかっています。
“小さく産んで、大きく育てる”は危険
名古屋大学大学院医学研究科の玉腰浩司教授らは愛知県の公務員を対象とした疫学研究で、出生時体重と成人してからの血清アディポネクチン値の関係を調べ、出生時体重が大きいほど成人後の血清アディポネクチン値が高いこと、成人の肥満者では血清アディポネクチン値が低いことを明らかにしています。以前から出生時体重が低い児では成人後の血圧が高くなり、心臓病にかかりやすいことがわかっていました。これはどうやら血清アディポネクチンが低いからではないかと考えられます。このことから、“小さく産んで、大きく育てる”のは危険であると言えます。
最近、若い女性では痩せすぎの人が多くなっていますが、痩せすぎの女性では胎児の体重も軽い傾向があり、成長後のアディポネクチンの低下、ひいてはメタボリックシンドロームにかかりやすくなることも考えられますので、痩せすぎは避けた方がよいと思います。
運動により善玉のアディポネクチンが増加
岐阜大学大学院医学研究科総合病態内科学の松本雅美医師らは岐阜県下の長寿地区と非長寿地区の住民を対象として生活習慣調査や健康診断を行い、長寿地区の住民では非長寿地区に比べて血圧は低く、アディポネクチン値は高く、運動能力が良好であることを認めています。これは長寿地区ではよく運動しているために運動能力が良好であり、アディポネクチンが増加し、血圧が低くなるからではないかと考えられます。 (健康づくり・生活習慣病予防 -健康長寿への道 4)(MEIHOKU-2007.05)